さくら

福島に行ったときに月の写真を何枚も撮った。
現像してみるとそこに白いもやが見えてゾッとした。
原発事故直後に撮影されたチェルノブイリのフィルム映像が思い浮かんだ。
フィルムの銀粒子が放射線にぶつかり破裂する事で一部白く感光したようになる。
晴れ空の下の車内で撮影されたにも関わらず雪が打ち付けるような映像になっていたあのチェルノブイリのフィルム。
カメラマンには見えていなかったであろう。
私のフィルムの白いもやはもちろん放射線によるものではなかった。
偶然にも桜をフラッシュで撮影してそのままにしておいたフィルムを間違えて使ってしまい、多重露光になっただけであった。
一瞬でも信じた自分を後ろめたく思う。
しかし怖いものは怖い。
見えない恐怖。知らない恐怖。
でも私はこの写真が好きだ。
桜も月も良かった。
桜は近所の桜で毎日目にしていたものであった。
月は吹雪の後にやっとのぞいた晴れ間から見え、とても澄んだ空に浮かんでいた。
いいなぁという気持ちと、怖いなぁという気持ちを向けて撮った写真が二つ重なって複雑になった。